企業とは、国が示す「道筋」で動く

5月31日付「レスポンス」報道によると、VWの電気駆動組織を統括するルドルフ・クレープス氏は、記者会見で今後VWが展開するEモビリティ戦略を紹介した。EV関連戦略となれば、日本の日産や三菱自動車なども緻密な計画を持っているし、V2Hなどの具体的な提案、実用化も少なくない。そのさ中のVW戦略には明確さと分かりやすさに高い説得力と未来を感じることができたのでここで紹介する。

同氏が説くVWの戦略を系統的に整理すると、

1. なぜEモビリティなのか?

同氏は「気象変動」、「大都市におけるスモッグと騒音」、「有限な化石燃料」、「世界的な規制の強化」をあげ、それに応えるためには「クルマは1リットルの燃料で100kmを走れるようにならざるを得ないこと。すると既存のパワートレーンでは無理があり、したがって新たなソリューションを考えなければならない」と説く。

2. 電動化の行程はどうなるのか?

小コラムでもかつて提言したが、VWが提唱する行程もほとんど同じものだった。
VWは駆動システムの電動化を着々と進める。その行程は「マイクロハイブリッド」にはじまり、「マイルドハイブリッド」⇒「フルハイブリッド(HEV)」⇒「プラグイン・ハイブリッド(PHEV)」⇒「レンジエクステンダーEV(RE BEV)」⇒「バッテリー・エレクトリック(BEV)」⇒「燃料電池(FCEV)」へと続く、としている。

3.そのためにクルマ側は何をするのか?

電動化を推し進めるための課題と対応策を提示した。特に重要なモビリティコンセプトとして新プラットフォームである「MQB」の重要性を説いた。これは1つのプラットフォームでEVやガソリンエンジンなどさまざまなパワートレーンに対応する車両設計の概念であり、次期ゴルフからこのMQBが導入されるとしている。

※ MQB(ドイツ語表記でモジュラー・トランスバース・マトリックス)とは、VWからアウディなどVWの各ブランドに導入が予定される次世代プラットフォーム。フロントホイールの中心点からアクセルペダルまでの距離など、フロント部のシステムにおけるいくつかの寸法・フォーマットを決めることで、ホイールベース、トレッド、ホイールサイズ、シートポジションなどを柔軟に変更できるシステム。

VWは2012年2月1日、次期「ポロ」から「パサート」まで、幅広い車種に採用される次世代プラットフォーム「MQB」を発表した。「モジュラー・トランスバース・マトリックス」の頭文字(ドイツ語表記)をとって「MQB」と名付けられた次世代プラットフォームは、VW、アウディ、シュコダ、セアトの小型車から中型車まで、さまざまな車種に採用される予定だ。同一プラットフォームを採用することで、理論上はこれらすべての車種を同一のラインで生産することも可能になる。 さらにガソリン、ディーゼル、モーターを問わず、さまざまな動力を同一のマウント方法で搭載できるように設定されている。そこでより生産性が飛躍的に向上し、大幅なコストダウンが可能になるという。(出典:VW AG)

4. インフラ側はどうあるべきか?

クルマ側だけにとどまらず、インフラ整備やオンラインモバイルサービスのバックアップも必要だと同氏は説く。そこで「インテリジェントな包括的エネルギーシステム」の考えも提示。「スマートグリッドと同列の考え方であり、発電所によるグリッド電力と風力発電などのグリーン電力、VW独自のコジェネ熱電供給システム」を組み合わせ、電力供給の安定化を図るものという。

5. エネルギー問題とどう向き合うか?

括りとして同氏は「化石燃料は将来的にはバイオ燃料へと転換させていく。したがって内燃機関にも明るい未来がある」と説く。そのためVWは内燃機関テクノロジーの改善も続けるとしている。車両の電動化の先にはスマートグリッドがあり、そこで化石燃料と再生可能エネルギーがミックス状態になっている発電分野の課題にも応えることになるとしている。

世界中がマーケットと捉える巨大企業VWならではの壮大な覇権戦略と言ってしまえばそれまでなのだが、自動車会社であるVWが、今後のモビリティ・スタイルは自動車単体だけでは決して成り立たないことを果敢にも示した、ともとれる。
地球温暖化、エネルギー問題、インフラ、モバイルサービスなどを包括的に考慮した一つの結論であろう。全世界マーケットを見据えるという意味ではトヨタも日産もホンダなども共通の認識であることは間違いない。が、VWとの絶対的な違い。それはどうやら「お国柄」のように思えてしかたがない。

「待ったなし」なのに、「限定、暫定」でいいの?

ドイツは2022年までに原発全廃を決めている。それは同時に常に電力エネルギーと向き合う企業にとって、取り組み方のあらゆる転換を促すことでもある。また時間を決めることでその速度は上がり技術開発のテンポも加速する、そして人々の価値観も大きく変わる。大切なことは何より生活者にとっての「結果」が良くなることだ。国家政策とはその一点にこそ尽きるはずだ。

翻って日本である。
野田首相と小沢元代表との会談・・・・。政局がらみのその中身にここで触れるつもりはないが、この後のぶら下がり会見で野田首相は「時間軸」と「待ったなし」という文言を使っている。その対象は消費税増税のことを指しているようだが、実はまんまエネルギー政策にこそ当てはまるのではないだろうか。

ほぼ同じタイミングで政府は原発再稼働(大飯)に舵を切った(としか思えない)。表向きは関西電力管内における夏の電力需給不安の解消を言うのだろうが、安全面では「暫定」基準を当面(新設予定の規制庁が新しい基準を決めるまで)掲げることで乗り切る、としている。大阪市の橋下市長はそれらを限定的と解釈しているが、シロウトから見ても他の原発もなし崩し的に再稼働していくことは目に見えるし、ましてや大飯原発を夏過ぎまでの期間限定稼働などとは毛頭考えてはいないだろう。これでは原子力ムラの既得権を守ったと勘繰られてもいた仕方あるまい。

なんでこの国はいつもそうなのだろう。問題先送り、なし崩し、本質からの逃避そのものだ。今エネルギー政策で叫ばれているのは、原発維持か脱原発か脱原発依存なのか、だけに終始している気がするが、それではあまりにも短絡すぎる。

量的には、今現在の季節差を含めた電力需給と5年、10年後の電力需給までをあらゆる省エネ技術、発・蓄電技術を考慮したシミュレーションが割り出せるはずだ。コスト面ではフェアな専門研究機関で電力自由化を含めたシミュレーションを出してもらう。これにも5年、10年後が必要だし、廃炉や除染などの見えにくかったコストも加えることが必須だ。
そうした後、マクロレベルでのエネルギー政策を安全リスクも加味して何通りか公開する。その中の一つを最良として政府決定すればいいが、必要なら選挙を介してでもいい。もちろん、その経緯にはいかなる特定利害、権益は介入しない。絶対に。

成長戦略をどうすべきかなどというものは、国家レベルでその道筋をどう示すかに他ならない。ちゃんとした道筋になら企業はついてくるし、生活者も納得する。

改めて問う。待ったなしは、何も消費税増税だけに限ったものではない。冒頭のVW戦略は、国家のエネルギー政策の道筋に企業が一定の納得をしたからこそ考えられた生き残り策であり最善策なのである。果たして日本はどこへ向かうのだろうか・・・・・。