自動車メーカーEV動向ウオッチング!Act.1「トヨタ」 見えた! EVホンキ度

トヨタ自動車の企業理念は、ず?っと「顧客、利用者第一主義」だ。誰にでも愛されるためのクルマ作りは、時に80点主義などと揶揄もされてきたが、貫かれてきた理念があったからこそ現在のトヨタが存在することも確かだ。
トヨタの中心と言えば、現在はまぎれもなく「ハイブリッド車」だろう。その代表格プリウスは8月の新車販売台数で15ケ月連続トップを達成した文字通りトヨタの大看板車種だ。
そのトヨタが、ハイブリッドや次世代HVのプラグイン・ハイブリッドに力を注ぐのは当然としても、冒頭の顧客第一主義のためには、常に未来を見据えなければならないことも事実で、そのためには様々な部門の研究開発も並行して行わなくてはならない。その大きな柱が、どうやらEVのようなのである。

2009年9月、フランクフルトで見えたコト!

昨年9月14日、フランクフルトモーターショーで、トヨタモーターヨーロッパの荒島正社長が記者団に明らかにしたのが「EVを2012年に投入する」だった。もちろん国も規模も明らかではないが、この時点で3年後の投入だから、実際にはこの数年前から計画していたことになる。この発言は環境立国のヨーロッパマーケットを睨んでとはいえ、軽い言葉とは思えない。完全にホンキなのだ。

同年10月5日にはトヨタが提携先の富士重工業と次世代EV共同開発の検討を明らかにした。富士重は7月から法人や地方自治体向けにEV「プラグイン・ステラ」を販売したが、次期EVはトヨタとの共同開発として性能向上とコスト削減による低価格化を目指すことにしたのだ。
どうやら当初はトヨタ独自開発のEVを販売する計画だったらしい。が、富士重ではすでにEVを市販し、走行データやメンテナンス上の課題などのデータ蓄積がある。それらの有効利用はむしろ当然だったと考えるのが自然だろう。

トヨタの現在の主力は、前述のとおりハイブリッド車だ。しかし、環境意識の高まりで、各国政府は排出ガスを一切出さないEVに手厚い購入補助など普及促進策を講じており、「EV普及は従来の想定よりも早まる」(経済産業省幹部)との指摘もこの時に出ている。
EVでは三菱、日産などが先行しているが、トヨタも「脱石油社会に向けて100年に一度の変革を求められる中、HVだけでなくEVや燃料電池車などの投入も考えざるを得ない」と豊田章男社長は。この当時にEVの開発・実用化を急ぐ方針を示している。

次世代電池の研究開発を強化

年が明けて2010年1月12日、嵯峨宏英常務役員は、北米国際自動車ショーで次世代電池の研究開発の加速に向け専門部門を発足させたことを記者団に語った。新たな開発部門は1月に設立され、約50人の技術者が次世代電池の生産プロセスを研究している。
トヨタはプリウス現行モデルにはニッケル水素電池を搭載してきたが、2012年に発売予定のプラグイン・ハイブリッド車にはよりエネルギー効率に優れたリチウムイオン電池を搭載することを決めた。
電池開発を統括する同氏は「われわれは電気式移動技術の要は電池技術の革新にあると信じている」と述べ、「リチウムイオン電池はすでに一歩進んだ技術だが、さらに優れたパフォーマンスを提供する電池が必要だ」意味深い発言をしたが、具体的な内容や発表の時期については触れていない。

トヨタ+米テスラと包括提携の衝撃!

2010年5月21日、衝撃的なニュースが日米を駆け巡った。トヨタ自動車と米EVベンチャーのテスラ・モーターズが交わしたEV事業を巡る包括提携という発表だ。
トヨタはテスラに出資し、テスラはトヨタが米GMと共同生産していた米工場「NUMMI」(ヌーミー、カリフォルニア州フリーモント)の跡地でEVを生産し、生産技術や電気自動車の技術でも協力する、というもの。

トヨタは、テスラの株式公開に合わせ、5000万ドル(当時の為替レートで約45億円)を出資し、数%を保有する株主になる。テスラは、NUMMIの一部を買い取り(結果的には4200万ドル)、2012年から量販型EVの生産を始める。そこでは数千人を新規雇用が発生し、1年後には生産台数を年約2万台に引き上げる計画だ。

トヨタはハイブリッド車で世界最大のメーカー。しかし次世代車として有力なEVでは、日産やGMなどと主導権を握る激しい争いが予想される。2012年に予定していた自前のEV計画にテスラの技術を取り込み、開発競争力をさらに有利に進めるのが最大の狙いのようだ。

オバマ大統領の高い評価と素早い意思決定

むろん米大統領の評価の理由は、「(NUMMIの)1000人の熟練労働者が、EVをつくる仕事に戻れる」という雇用問題に起因している。いずれにしても、この提携を世界が注目しているのは確かだが、なんといっても一番の驚きはその素早い意思決定(両社の)ではないだろうか。

  • 5月下旬には両社は提携を決めた。
  • 些細な問題がなかったわけではない。
  • 6月中旬にはテスラが約500万円で「モデルS」(写真。(NUMMIで製造)を日本市場に投入すると発表した。
  • 7月には今度はトヨタが共同開発のEV試作モデルのベース車両にRAV4とレクサスRXに決めるという。

巨大企業のトヨタとEVベンチャーの雄テスラのトップ同士がテンポ良く話しを進めている。それこそが時代なのかもしれない。いや、おそらく豊田章男社長をはじめとする新生トヨタが時代を察知しているのだろう。

トヨタがEV開発の「BR-EV開発室」を技術部に設置

8月1日、トヨタは「BR-EV開発室」の設置を決めた。第2開発センターなどを担当する奥平総一郎常務役員を中心に技術部の5人が兼任で参画する。
BRはビジネス・リフォームあるいはビジネス・リボリューションを表しており、BRチームがさまざまな業務改革を推進するという。
2012年に独自開発車とテスラとの共同開発車の2種類のEVを投入するなどEV戦略を本格化する計画だが、開発室の設置でEVの要素技術を主体にした技術企画をさらに推進することになっている。
その中身は、車載用電池を搭載した小型車「iQ」ベースのEVを米国で発売し、これとは別にパソコン用電池を用いるテスラの技術を採用したSUV「RAV4」、「レクサスRX」ベースの共同開発EVを発売する計画という。
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やや急ぎ足でEVと取り組むトヨタの最近1年を振り返ったが、トヨタゆえにEV計画(新しい自動車展開)は慎重かつ繊細に進めている。ただ、こうと思った時の決断の早さと実現に向けての意思決定のスピードは、ちょっと今までとは違うものを感じた。
既成概念にとらわれないパートナー選び、社外任せにせず核心部分は独自で研究・開発、選択と集中、所在責任の明確化など、どっかの政権政党にはぜひ見習ってほしい構図ではないだろうか。