EVだと、ビジネス・インパクトも次世代

ざっくりとだが、’60年代から’90年代ぐらいまで、自動車にとっての目標はひたすら機能と性能進化・向上で市場ニーズに対応していったように思う。自動車は国内的にも国際的にも消費・流通経済の中心をきわめ、そのために必要な商品付加価値を考えれば、「性能」、「品質」、「快適性」、「経済性」、「価格」、「デザイン」が大きな商品力のファクターとなっていたからだ。
もちろん、その動力の中心にあったのはガソリン内燃機関(エンジン)だ。時代ごとに電子化技術などを駆使し、機能や性能を大幅に向上させてきたことは間違いない。ただし、今までは。
21世紀を迎えるに前後して象徴的な出来事があった。トヨタ・プリウスのデビューだ。電気モーターとエンジンを組み合わせた文字通り「次世代自動車=ハイブリッド車」の登場である。その最大の商品価値は一にも二にも「燃費=経済(節約)・環境性能」ではなかっただろうか。 このプリウスの登場が、自動車に感じる、人の価値観を大きく変えていったようにも思う。
今後の流れとして、下記のようなマトリックスを暗示させるからだ。

低燃費(エコノミー&エコロジー)/第一世代=ハイブリッド
エンジン主、モーター従
                      ↓
モーター、電池の飛躍的進化/第二世代=プラグイン・ハイブリッド
エンジン、モーター&バッテリー50対50
                      ↓
さらに充電設備、技術の進化/第三世代=EV&燃料電池、次世代エネルギー車
モーター、バッテリー主、エンジンレスorカーボンニュートラル・エンジン

ハイブリッド車の登場があって改めてモーターや電池が注目され、「つぎ」へ一定以上の示唆と刺激を与えることになる。そして、どうやら自動車に求めるマーケット心理が、持続可能社会実現商品へとシフトしていくことになるのだが、それはまさに今始まったばかりだ。世界の流れに敏感な民間企業は、しっかり次を見据えた対応を見せているのだが・・・・。

EVは、劇的に自動車ビジネスを構造転換させるのか!

これからのEVの動向に大切なことはいくつかあるが、自動車本体と並行して重要なファクターに「電池(性能、価格)」や「インフラ」が挙げられる。そこで関連企業などのこの数ヶ月の動向をいくつか遡ってみた。企業がEVのどの部分をビジネスチャンスと捉えているのか。おぼろげながらだが見えてくる。

時代のカギは電池に集中か!

企業(事業目的) 概要
日本電工(電池需要増を見込んだ設備投資) EV需要でマンガン酸リチウム工場増設
日本電工は2月10日、富山県高岡市に「マンガン酸リチウム」製造の第2大型工場を増設すると発表した。同社は、リチウムイオン電池の正極材料であるマンガン酸リチウム(LMS)を製造販売しており、需要増に応じて適切な設備投資を実施し、生産能力を増強している。EVの急速な需要増に対応するため、第2大型工場を増設する。5月に着工し、11月に完工予定。2011年2月に生産を開始する予定だ。
NEC(電池需要増を見込んだ体制強化) リチウムイオン電池事業を分社、需要拡大を見込んで体制強化
NECは、子会社のNECトーキンの大容量ラミネート型リチウムイオン電池事業を分社化し、NECの100%出資の新会社「NECエナジーデバイス」を設立して移管する。自動車向けなどでのリチウムイオン電池の需要増を見込み、NECグループとして新会社に事業を集中して体制を強化する。
パナソニック(パソコン電池のEV応用) EVにノートパソコン用標準リチウムイオン電池を応用
パナソニックがEV用に採用する汎用二次電池は業界全体で年間10億本が売られており、コスト低減が進んでいる。これを並列に20個、直列に7個の合計140個接続した電池モジュールを電気自動車なら14個、家庭用二次電池なら6個といった具合に、用途に合わせて複数組み合わせる。
東芝(高性能2次電池の開発) 2次電池「SCiB」を自動車メーカー数社と共同開発
東芝は ロイター・テクノロジー・サミットで、同社の二次電池「SCiB」について、「現在数社の自動車メーカーと開発フェーズにある」ことを明らかにした。 SCiBは、リチウムイオン電池の一種で、安全性や充電時間の大幅短縮、長寿命化などの性能に特徴がある。
リチウムエナジージャパン(電池製造の設備投資) 滋賀県にリチウムイオン電池生産の栗東新工場建設で総額375億円投資
リチウムエナジージャパンは、滋賀県栗東市内に新工場の建設をを決定した。栗東新工場は2012年度初頭より稼働を開始し、電気自動車用リチウムイオン電池を年産440万セル(i?MiEV)5万台分)を製造する。また、設備投資額は総額375億円を予定。
トヨタ(電池研究の強化) 次世代電池の研究開発を強化
トヨタ自動車の幹部は北米国際自動車ショーで、2012年に発売されるプラグイン・ハイブリッド車にはよりエネルギー効率に優れたリチウムイオン電池を搭載すると語った。電池開発を統括する同幹部は「我々は電気式移動技術の要は電池技術の革新にあると信じている」と述べ、「リチウムイオン電池はすでに1歩進んだ技術だが、さらに優れたパフォーマンスを提供する電池が必要だ」と述べた。

しのぎをけずる、充電インフラ事業

企業(事業目的) 概要
日本ユニシス(EVインフラ事業の新機軸) カーナビ利用のEV充電スタンド情報サービスの実証実験
日本ユニシスは19日より、EV向け充電スタンドの位置情報や空き情報をカーナビで提供する実証実験を開始した。同社は、EVやプラグイン・ハイブリッド車向け充電インフラシステムサービス「スマートオアシス」を開発し、EV、PHVの導入・普及に積極的な地域での社会実証実験用に提供する。 東名高速道路の電気自動車向け「充電インフラ」の課金・決済サービスを提供
日本ユニシスは、中日本高速道路株式会社と高速道路関連社会貢献協議会が共同で4月28日から運用、東名高速道路における「電気自動車用急速充電システム」への課金・決済サービスの提供を開始した。このEV向け急速充電システムの利用者への課金・決済を行う運用サービスは日本初。
マイクロソフト/フォード(EVインフラソフトへ異業種同士のコラボ) EVの充電効率化で提携
米マイクロソフトは3月31日、米フォードとEVを効率的に充電するためのソフトで協力すると発表した。両社はマイクロソフトの電力管理アプリケーション「Hohm」を、来年からフォード・フォーカスのEV仕様車に搭載する。同アプリケーションを採用する自動車メーカーはフォードが初めて。
日産自動車/GE (EV充電インフラ事業へ共同研究) EV普及に向けた充電技術で共同研究
日産自動車は米GEとEV普及に向けた充電技術で共同研究を行う覚書を締結した。家庭やビル、送電網ごとに先進的な通信・制御技術を使い、効率的にEVの充放電を行う「スマート充電技術」を研究し、普及に欠かせない充電インフラ整備を目指す。

先端技術とコストへの取り組み

企業(事業目的) 概要
シムドライブ(EV技術の普及) 電気自動車の先行開発車事業第1号開始
EVの技術普及を目標としているシムドライブは1月22日、同社初の事業として「先行開発車事業第1号」を開始すると発表した。第1号の開発には、いすゞ自動車や三菱自動車工業など自動車メーカーや自治体を含む34の事業体が参加し、2013年頃の量産を目指す。
NTN(EV次世代技術) EV向け「インホイールモーター」を2012年にも世界で初めて量産へ
NTNは、インホイールモーター方式の次世代EV向けに「インホイール型モーター内蔵アクスルユニット」、「電動ブレーキユニット」、「多軸荷重センサー」を組み合わせた、世界最軽量の「インテリジェント?インホイール」を開発した。
古河機械金属(コイルの低コスト化) PHV・EV向けリアクトルの試作納入を開始
古河機械金属グループの中核事業会社である古河電子は、自社開発したアモルファスダストコアを使用したプラグイン・ハイブリッド車(PHV)・電気自動車(EV)用リアクトルの量産試作品の納入を開始した。

これらの動きは企業トピックのほんの一部にすぎない。

  • 自動車会社は異業種企業との共同研究や技術提携。
  • 電池メーカーは需要を見込んだ増産・強化体制。
  • 素材メーカーはローコストへの新たな技術開発。
  • ITサービス企業は充電インフラへの参入。

など、EVを中心にすると見えてくるものは、どうやら「自動車ビジネスの構造転換」のようだ。
EVの普及が世の中に与えるインパクトとは、自動車産業の構図が「巨大ピラミッド型」に留まらず、よりスピーディでフレキシブルな「放射分散型」を可能にすることでもある。その動きは電気のごとく静かに、しかし着実に浸透している。