どうなる、蓄電技術! 「無理、ムリ、むり・・・」から「いや、できる!」が、日本の生きる道

菅総理の「脱原発(ともとれる)発言」が物議をかもしている。
再生可能エネルギーの普及や拡大も、安全を確保できるエネルギー技術の推進・向上も、誰も真っ向から反対するわけがない。ただし・・・、時間軸を含めた「道筋」、経済活動への「影響」、家庭や企業が負担する「電力コスト」を具体的に示さないから一斉にブーイングを食らうのではないだろうか。まっ、それ以外にも巨大な「既得権益」という力学も働いていると想像しているが・・・。何にでも言えることだが、大事なことは「誰がやるかではなく、何をどうやるか」に決まっている。そこだけは確かだ。

「電気」と「原発」のニュースや論調が途絶えたことがない昨今、電気エネルギーに関する素朴な疑問サイトを覗くと、発電して余った電気を溜めておくことができれば、つまり蓄電(そのパッケージがバッテリーだが)すれば、電力不足なんてすぐに解決するのでは? といった内容の投稿が目立つ。例えば、
Q「電力が余れば蓄電させて、後で使うなり被災地に優先して送るなりすれば良いのにと思ってしまうのですけど、やはり電力会社が扱うような膨大な電力を蓄電するのは難しいのでしょうか?」とか、
Q「おそらく今は、常にリアルな発電で起こした電気を使っていて、足りなければ止まるし、余れば無駄になるという仕組みで蓄電設備なんてないですよね?」
といった実にストレートな疑問だ。端的な答えとしては、
A「電力会社が蓄電池を持つ必要はない。溜めるより、生産して調整した方が低コストだからだ。ピーク容量が足りないということもあるだろうが、どこかに溜めておいて災害時に使うというのは難しい」
なんとも素っ気ないが、現状で言えばその通りなんだろうな、という答えだった。

蓄電ビジネスはエネルギー事業第四の柱!

蓄電に関するサイトを覗いてみて驚くのは、蓄電方法と技術の種類の多様さだ。やはり時世なのだろうか、バッテリー事業大手の三洋電機(パナソニックグループ)の取り組みは注目できる。同社の佐野精一郎社長は「蓄電ビジネス」を、太陽光発電を含めた電池、エネルギーマネージメントシステム、スマートエナジーシステムに次ぐエネルギー第四の柱と位置づけている。
冒頭の素朴な疑問に対して、実は企業は着々とだがちゃんと現状に応えていることが分かろうというものだ。


三洋電機の加西グリーンエナジーパークは壮大な実験場だ。同社はバッテリーマネジメントシステムを開発。これにより同パークに設置された約31万本の円筒形リチウムイオン電池セルから構成される世界最大規模の蓄電システムをマネジメントする。バッテリーマネジメントシステムは、多数の蓄電用標準電池システムとこれらを制御するバッテリーマネジメントコントローラーを組み合わせたもので、18,650サイズの円筒形リチウムイオン電池セルを312本内蔵し、1ユニットあたり1.6kWhの蓄電が可能になるという。

電気の貯蔵方法:現行技術

種類

概要

揚水発電(位置エネルギー)

揚水発電は、夜間などの電力需要の少ない時間帯に原子力発電所などから余剰電力の供給を受け、下部貯水池(下池)から上部貯水池(上池)へ水を汲み上げておき、電力需要が大きくなる時間帯に上池から下池へ水を導き落とすことで発電する水力発電方式。
特徴は、発電開始や最大出力までの時間が短く、出力調整が容易。100の揚水電力で、70程度の発電が出来る。機能的には最大の電力貯蔵の方法。

フライホイール(運動エネルギー)

フライホイール・バッテリーとは、エネルギーの保存方法の1つ。電気が持つエネルギーを一時的に回転運動の物理的エネルギーに変換することで保存し、電気が必要な時に回転運動から発生した電気。特徴としては、エネルギー密度が高く、長時間停電に対応できる。

SMES(磁気エネルギー)

SMESは、超電導の電気抵抗がゼロという特性を活かして、電気を直接超電導コイルに磁気エネルギーとして貯蔵するもの。電気を直接貯蔵することで、高い貯蔵効率で大電力を素早く供給することができる。超電導は、電気を電気抵抗ゼロで流すことができるため、超電導コイルに一度電気を流して永久電流スイッチを閉じれば(閉回路)、永久的に直流電流が流れ、電力を蓄えることができる。一方、電力系統に電力を供給する場合は、超電導コイルに蓄えられた直流電流を交直変換器で交流電流に変換して供給する。
特徴としては、貯蔵効率が高いことと、短時間大出力が可能なこと。

電気二重層キャパシタ(静電エネルギー)

電気二重層コンデンサは、電気二重層という物理現象を利用することで蓄電効率が著しく高められたコンデンサ(キャパシタ)。自己放電によって時間と共に電荷が失われ、化学反応で電気を蓄える二次電池と比べると蓄電出来る時間は短い。
特徴は化学反応を必要としないため充電と放電の反応が早く、内部抵抗も少ないために、大電流での充放電が行える。

NAS電池(化学エネルギー)

 

ナトリウム・硫黄電池とは、負極にナトリウムを、正極に硫黄を、電解質にβ-アルミナを利用した高温作動型二次電池。NAS電池またはNASとも呼ばれる。特に大規模の電力貯蔵用に作られ、昼夜の負荷平準などに用いられる。
特徴は、日本ガイシによると、低負荷時間帯に充電しピーク時間帯に発電する運用ができ、需要家設置の場合では電気料金削減や電力品質向上ができる。

リチウムイオン電池(化学エネルギー)

リチウムイオン二次電池とは、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う二次電池。現在では、正極にリチウム金属酸化物を用い、負極にグラファイトなどの炭素材を用いるものが主流となっている。
三洋電機のHIT太陽電池による1MWの太陽光発電システムと世界最大規模となる1.5MWhの大容量・高電圧リチウムイオン電池による蓄電システムは、目下の最新技術と言われている。

リチウム・空気電池(化学エネルギー)

リチウム・空気電池、または金属リチウム-空気電池とは、金属リチウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質とし、充放電可能な電池を指している。一次電池、二次電池、燃料電池が実現可能。

ニッケル・水素電池(化学エネルギー)

ニッケル・水素充電池は、二次電池の一種で、正極に水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金、電解液に濃水酸化カリウム水溶液 (KOH (aq)) を用いたもの。

レドックス・フロー電池(化学エネルギー)

レドックス・フロー電池。英:redox flow cell,redox flow battery)は二次電池の一種で、イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させて、充電と放電を行う流動電池。

太陽熱貯蔵―蓄熱(その他)

CSPシステムは、太陽エネルギーを集中し吸収することにより発生させた熱を発電に利用する。蓄熱が可能な CSP発電所は、間欠的な太陽光という条件下でも持続的に運転でき、太陽がでていない間も発電することができる。蓄熱できれば、CSP発電所は需要に応じて発電することが可能。


三洋電機の佐野精一郎社長は、大型蓄電事業をエナジー事業の4本目の柱とし育成、強化していく考えだ。大型蓄電事業部を立ち上げたのもそうした狙いからという。市場の拡大にあわせて、住宅用、系統安定化用、業務用といった領域に蓄電システムを提供し、CO2排出量の削減に貢献していくという。大型蓄電池は2015年には1兆円、2020年には2兆円以上の市場規模が見込まれる。写真は実証実験中の1.5MWhリチウムメガバッテリーシステム。

どうやら日本の「蓄電技術」は相当高いレベルを持っているが、費用対効果や規制、ルールなどの壁があって普及を遅らせているような気がしないでもない。その意味では今回の大震災と原発事故がもたらせたインパクトは極めて大きく、関連技術が飛躍的に世の中に浸透しやすい環境になったことも事実だろう。
さらに、再生可能エネルギーの「全量買い取り」法案の成否もある種のファクターには違いないが、それを待たずに地域による事実上のエネルギーの地産地消(「大規模集中型」から「小規模分散型」)が確実に広がりを見せている。文字通りエネルギーから「地方分権」は始まっているのだ。
人間、無くては困るものへの執着は凄い。そして理念と技術を持ち合わせた日本企業の動きと対応は早い。そこには少なくても「政官依存」という発想は無用である。


バッテリーマネジメントシステム(BMS)の概要図:三洋電機は太陽電池などで発電した電力を蓄電池に充放電する制御機能を備えたバッテリーマネジメントシステム(BMS)を開発した。このBMSは、蓄電用標準電池システムとバッテリーマネジメントコントローラーで構成され、ノートパソコン用電池などで培ってきた充放電制御技術を進化させることで、およそ25万個のセルからなる蓄電池棟の電池を一つの電池のように扱うことができる。また、バッテリーマネジメントコントローラーは、電圧、電流、温度などからリチウムイオン電池の状態を正確に把握し、大型蓄電システムとしての性能を最大限に引き出す。


震災以来、どのようにしてCO2排出のないグリーンエネルギーの導入を活発化させるかが議論されている。風力発電や太陽光発電のような不安定な再生エネルギーは、現状では系統への影響などで導入が抑制されており、再生可能エネルギー開発者だけでなく系統管理者側も不安定な電力の変動に対して系統システムの安定性が損なわれることを危惧し、適切な解決手段が見出せないでいる。日本ガイシはNAS電池システムを風力発電や太陽光発電に併設することにより、この問題と取り組んでいる。

蓄電技術に関する具体的な方向性は、
三洋電機加西グリーンエナジーパーク
 http://panasonic.co.jp/sanyo/gep/
日本ガイシのNAS電池
http://www.ngk.co.jp/product/insulator/nas/index.html
を参照されたい。