EVコンバージョンは、「次世代モビリティ」への第一歩

4月27日、東京・本郷の東大構内にある「福武ホール」で、電気自動車普及協議会によるEVコンバージョン(国土交通省のリリースではコンバージョンEVと表している。どちらでもOK)のガイドライン記者発表が行われた。記者会見としては比較的早い会見時間にも関わらず150人ほどの報道陣が集まったのは、同テーマへの関心の高さを表す結果となった。

このガイドラインの概要、内容は、エンジン車から電気自動車への改造にあたり、

  1. 感電から人を守る対策
  2. 電気的なトラブルで火災を起こさない対策
  3. 車両の強度を確保する対策
  4. 走行性能を確保する対策
  5. 走行の信頼性を確保する対策
  6. 誤操作による急発進等を防止する対策
  7. 制動性能を確保する対策

の、大きくは7つの項目からなっており、同協議会の田嶋伸博 代表幹事が部会長を務めるEVコンバージョン部会と国土交通省関東運輸局、自動車検査独立行政法人、軽自動車検査協会東京主管事務所などの所轄官庁、協議会会員各社が協議して作成したものだ。(*詳細は同協議会のhttp://www.apev.jp/guide/

ご承知のように、EVは三菱自動車や日産自動車から量販コンプリートモデルとして発売されているほか、今後はトヨタやホンダ、海外メーカーからも発売が予定されている。そのような量販EVは、その製造会社が万全の安全対策を施していることは当然のことだ。
しかし、柔軟なEV普及を実現させるためには、既存の内燃機関エンジン車両のエンジン、ガソリンタンクを外し、代わりにモーターとバッテリーを搭載してEVに仕立てる「改造(コンバージョン)EV」も、もう一つのEVの姿として、今後の重要なファクターになるべきだと考える。
そのために、安全性や信頼性、使い勝手、コストはきわめて重要で、そのガイドラインをEVコンバージョン部会が音頭をとる形で行ったわけだが、今後は整備業界、中古車業界など実質的に関連するであろう関係者とのさらなるコンセンサスも重要となってくることは間違いない。

「改造」と言うより、ライフスタイルの「転換」!

エンジンをモーターとバッテリーにコンバート(変更する)し、EVへのコンバージョン(転換)を実現させるのは、「改造」という行程を踏むのは当然のことだが、いわゆる「カスタマイジング」や「チューニング」とはいささかニュアンスが異なる。EVコンバージョンは、いわゆる性能向上型の改造とは異なり、あくまで既存のエンジン車両を電動車両にするために、優先順位の第一として移動体としての「安全性」と「信頼性」を採っているのだ。

今後、EVコンバージョンの可能性は大きく二つあるのではないかと見ている。
一つは、コスト重視と趣味重視を考慮したタイプだ。前者は格安中古車などを活用した、あくまで低コスト優先のEV。後者は憧れのクルマを仕入れ、心臓をモーター化させて甦らせたEV。現にアメリカではMG-TFといったクラシック・スポーツのEVが現存する。いずれも、既存の自動車の概念自体は変わらず、EVバリエーションの選択肢を拡大させることで貢献するだろう。
二つ目は、自動車自体の在り方の転換だ。本来自動車は一つの個体として、人や荷物の移動手段だ。今後もその目的自体が変わることはない。古くはカローラ、サニーに始まった家族や仲間同士にとっての快適移動手段だ。時とともにその姿は、より大きめになり、ミニバンになり、SUVになっていった。これは時代時代のマーケットの理想個体が変貌、進化したものであり、決して仕組みの進化ではない。
量販EVもEVコンバージョンも、大きな可能性として「オートモビルからモビリティ」へと転換するポテンシャルを秘めている。モビリティの本質とは、その人や地域に適切な、使い方に忠実な、設定された時間とコストどおりの移動やデリバリーこそが、究極の目標であるはずだ。
仮にそれらの仕組みが確立されたときに、もうそこには「(EVの)航続距離」が長いか短いかとなどという概念はない。一番大切なことは、本来なすべき目的(移動距離と時間)を確実にこなすことにあるからだ。一充電で100キロはおろか80キロでも十分目的を達成する使い方はあるはずだし、超小型の二人乗り(又は一人+大きなラゲッジ)が在るべき姿としている使い方もあるだろう。

長距離も、家族の送り迎えも、買い物も、週に一度の病院へも、冠婚葬祭も、何から何まで1台のクルマで賄おうとする時代は、超高齢化社会に突入する今、ある種の終焉を迎えることになるかもしれない。一にも二にもクルマという移動体の目的は、人と荷物の移動手段だ。果たしてドアtoドアがハウスtoハウスに変わろうとも、エネルギーが地産池消ならぬ自産自消になろうとも、それが高効率で納得のローコストで未来に希望が持てるエネルギー社会であれば、異を唱える人などまずいないだろう。

電気自動車普及協議会会長にして、EVベンチャーの雄シムドライブの会長である福武總一郎氏は、本来はベネッセホールディングスの会長であり、出版界に於いてはカリスマ的経営者だ。記者会見を行った東大構内の福武ホールは、氏の個人寄付で建てられた。産官学の連携やオープンソース方式を実践するなど、EV普及に向けた氏の動きがますます注目されている。

電気自動車普及協議会代表幹事兼EVコンバージョン部会と超小型モビリティ部会のまとめ役を担う田嶋伸博氏(左から二人目)はタジマモーターコーポレーション代表。モンスター田嶋の異名を持つモータースポーツ界の重鎮でもある。かつてツインエンジン・カルタス(競技用)を作り、大いに注目を浴びるなど、既成概念を超えた発想力や技術と経験が電気自動車の普及を促すだろう。