エレクトライクの明快な回答とは、
「多機能ではないが、価値ある単一機能に徹する」だった

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正直言いますと、私、試乗記など40年以上書いておりません。元々自動車専門誌の編集者だったので、いわゆるロードインプレッションや車両解説の類は自動車評論家やモータージャーナリストの管轄であるため、こちらはそれを依頼したり構成したりすることが主たる仕事だったからです。
とはいえ、立場上ほとんどのクルマには触れてきましたので、少なくとも(そのクルマが)自分の好みの範疇か程度の、誰でもできるような安直な評価はできていたようです。

私のようなレベルのリポーターは論外としましても、試乗記とは多かれ少なかれそれを評価する人の好みが色濃く反映されてきたように思います。しかし、今も昔も本質論で問うならば、そのクルマを、可能な限り時代の動向を鑑みた客観性で評価することこそが肝心だと感じています。

その本質とは・・・・、私が思うに、
その商品が──誰(どういう利用者に)に対し、どのような価値を、どのように提供できるのか、を検証し報告することではないかな、と。

結論から申せば、エレクトライクは皆さんが思ういわゆる自動車と同じ土俵には立っていません。そこを目指していないからです。
エレクトライクは3輪車であり、EVであり、近距離配送業務に特化、という仕様に徹したのには、そのすべてにちゃんとした理由があったからなのです。それは後ほど。

 

たった1分のレクチャーで楽々発進!

日本エレクトライクの松波CEOからじきじきに試乗前のレクチャーを受ける。
「バイク乗ったことあります?」
──「原チャリスクーターなら・・・・」
「それで十分です」
実はレクチャーはほぼそれだけ。スイッチ類はとても少ないから見れば分かる。スタート前の準備行動はブレーキを踏んで行うのはスクーターでは当たり前だから、ものの1分もかからずにスタートにこぎつけることができた。

日本エレクトライクのある武蔵中原駅付近は、人もクルマも比較的通りが少ない道が多く、道幅も狭いからエレクトライクを乗り回すには絶好のシチュエーションだ。というより、典型的な都市部の生活道路が網の目のように走る道路状況ともいえ、このクルマの持ち味を見出すのに格好なステージだった。

※エレクトライクは、インドのバジャージオート(インド第2位のオートバイメーカーであり、世界最大の3輪車メーカー)製の3輪車(現地仕様は190ccのエンジン車)を輸入し、そのボディとフレームを使用してEVコンバート(動力を電気自動車に改造)したものだ。

言葉で言うと簡単なようだが、
●安全性を確保するためのフレーム剛性などの見直し。
●モーターや電池(リチウムイオン電池)の適正なマウント位置の確定。
●3輪車特有の転倒不安を払しょくするための最新技術の導入。
●誰でもが扱いやすいニュートラルな操縦性。
●どのクルマにも勝る、圧倒的な小回り性・・・・等々。
を徹底的に見直し、実現させたことだ。エレクトライクが、国交省の型式認定を取得したことからもそれらは如実に証明されている。

私の知る限り、他国などからベース車両を輸入し、一定の改造を施し国内で販売される例はいくつか存在するが、型式認定の取得までした例は一度も見たことがない。
型式認証制度とは、自動車製造者が新型自動車の生産又は販売を行う場合に、予め国土交通大臣に申請又は届出を行い、保安基準への適合性等について審査を受ける制度で、申請から認定までち密で膨大な行程を辿る。この認定によって初めて量産が可能となり、自動車メーカーとして認められたことになる。
まさしくそこに、日本エレクトライクの本気度が計り知れるわけだ。行程自体は地味だが、その中身はかなり濃い、という証明でもある。

右下部のフットブレーキを踏みながら左のイグニッションをONにして赤いボタンを押してカチッといったらスタート準備完了。あとはパーキングブレーキを解除してアクセルをひねれば静かにスタートする。バーハンドル左のウインカーも慣れれば簡単。オートバイ経験があればさらに簡単。

右下部のフットブレーキを踏みながら左のイグニッションをONにして赤いボタンを押してカチッといったらスタート準備完了。あとはパーキングブレーキを解除してアクセルをひねれば静かにスタートする。バーハンドル左のウインカーも慣れれば簡単。オートバイ経験があればさらに簡単。

横から見たシート周り。シートはもちろん自動車よりもスクーター型オートバイに近い。しかし、フットスペースは完全スルーだから乗り方は自動車に近い。形状から大きさまで使われ方に最大限配慮したデザインといえよう。

横から見たシート周り。シートはもちろん自動車よりもスクーター型オートバイに近い。しかし、フットスペースは完全スルーだから乗り方は自動車に近い。形状から大きさまで使われ方に最大限配慮したデザインといえよう。


 

乗り始めて数十秒、すぐに慣れた!

パーキングブレーキを解除して走り始めてからわずか数十秒、すぐに慣れた。
走り始めた最初の印象は、ワイパー付きの屋根付きフロントカウルを備えた、止まっても横に倒れることのない、ほとんどスクーター感覚に近いといったところだろうか。でもスクーターではあり得ないバックまでこなしてしまう。そこは普通の自動車と同感覚。

エレクトライクが最も誇る旋回性能はどうだろうか。
技術的にはハイテク満載のセンサー技術を搭載しているのだが、そんなタカビーな感覚は運転者に一切感じさせない。とにかく自然。ごく普通に(専門家ならニュートラルステアと表現するのだろうなあ)転倒の不安感など微塵も感じさせずに交差点などを曲がっていってくれる。こりゃあ楽チンだ。老若男女、普通免許取得者なら誰でも気軽にそしてすぐに乗りこなせる。
あまり運転に自信のない女性も、バリバリの運転大好き女性もいっしょ。あえて申せば周囲の注目度が高いから、他人の視線などまるで平気、かえって快感ぐらいのしたたかさがあればもう完ぺきでしょう。

最高速度は50㌔/h程度に抑えられている。エレクトライクの使用目的、つまりある程度限られた地域内配送などでの使用と割り切ってしまえば、それ以上の速度は必要ではない、とメーカー側は判断したのだろう。その割り切り、大いに賛成だ。

EV特有の高トルク感はアクセル(バーハンドル右側のグリップ)を手前に回せば40㌔/hぐらいまでは一瞬にして到達する過程で感じることができる。
もちろんモーターだから、スロットルを上げて進むエンジン音とはまったく無縁のフィーリング。つまり、音量を上げながら速度が増すのではなく、一定のボリュームで周りの景色がどんどん後方に流れていく。
この快感、内燃機関とはまったく異質。EVを体験しない限りこの感覚は理解しにくいだろう。表現は適切ではないかもしれないが、ボリュームを小さくしてプレステ・グランツーリスモの「×(スロットル)」ボタンを押している感じ、といったところだろうか。

試乗車には日本エレクトライク系列会社である日本ヴューテック製後方視認装置「リアヴューモニター」が装着されていた。乗り始めた直後はバックミラーに映るのは純粋に後方視界だと錯覚した。実はモニター画像を映していたのだ。荷台をカーゴなどにしたときにその威力は絶大なので、ぜひ装着したい。同社の松波CEOが夢の中で見たもので、「これはいける!」と直感で商品化したという逸話もある。
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試乗車には日本エレクトライク系列会社である日本ヴューテック製後方視認装置「リアヴューモニター」が装着されていた。乗り始めた直後はバックミラーに映るのは純粋に後方視界だと錯覚した。実はモニター画像を映していたのだ。荷台をカーゴなどにしたときにその威力は絶大なので、ぜひ装着したい。同社の松波CEOが夢の中で見たもので、「これはいける!」と直感で商品化したという逸話もある。


 

他に迷惑をかけない、というのも「安全」の一つ

エレクトライクは前述したように、ほぼ配送目的に特化している。実際の活用シーンとしては地域の生活道路を中心にこまめに走り回ることになる。目的の会社や家や団地に着けば、そこでわずかな時間とはいえ駐停車をしなければならない。そこで車幅1.3m以下が大きな意味を持つ。他車の妨げになりにくいのだ。
生活道路は3.5m幅前後の道路が多いから、軽自動車で配送している人なら分かるが1.48m以下の車幅でも大きすぎる場合が少なくない。サイドミラーを倒さなければなおさらだ。
そして何度も何度も配送業務を繰り返す仕事にとって、規格上ドアもシートベルトもないから、乗り降りの所要時間も大幅に短縮される。つまり、移動と停車時のストレスを最小限に抑え、スムーズに仕事をこなすことができる、ということになる。

ドアがないから(そこに抵抗がある方もいらっしゃるでしょうが)、左右の状況が腰から下までも確認できる。それって抜群の視認性の高さからくる周辺視覚情報量が多いということじゃないか?
ってことは、こちら側がしっかり運転マナーを守り、ちゃんと状況判断ができれば、他(他車や自転車や人)を巻き込むことも巻き込まれることも飛躍的に少なくなるはず。

現実的にできるクルマ側からのセ-フティって、大手自動車メーカーが今でも研究を重ねているアクティブ(能動的安全装備)やパッシブ(受動的安全装備)だけじゃなくて、こういうことも指すのではないか、と思ってもみた。
「小さい」ことと「広い視認性」、おまけに「静かさ」がもたらす、「思いやり安全性」とでも言いますかね。

最高速度は抑えられているが、ボディが超コンパクトだから、実際速度より速く走っているように感じる。それは安全性確保にはかえって好都合に違いない。
実は絶対速度が思ったより出ていないから、ブレーキも予測より早く利く感じだ。つまり制動距離が思ったところよりやや短くなる。すぐに慣れますがね。

写真の仕様はベースユニットにウッドを施したオシャレなもの。もちろん、カーゴ、スライド、ピックアップなどデリバリーからパーソナルまで、目的に応じて荷室を選ぶことができる。

写真の仕様はベースユニットにウッドを施したオシャレなもの。もちろん、カーゴ、スライド、ピックアップなどデリバリーからパーソナルまで、目的に応じて荷室を選ぶことができる。

 

「三丁目の夕日」時代に戻るのではなく、
こういう時代だからこそ、エレクトライクは広く浸透するべき

若干の意匠デザイン変更を施した新型モデル。ヘッドライトとウインカーが完全に分離し、フェイスも精悍さを増した感じ。

若干の意匠デザイン変更を施した新型モデル。ヘッドライトとウインカーが完全に分離し、フェイスも精悍さを増した感じ。

エレクトライクは、国内のトライク規格に則っている。結果、
●長さ2.5m以下、幅1.3m以下、高さ2.0m以下、総排気量250cc以下。電気モーターに関しては1.0Kwを超えるもの。
●車検、車庫証明不要。
●自動車税は2400円。
●左右解放(ドアなしということ)、バーハンドル、またがり式。
●ヘルメットの装着義務はなく、かつシートベルト着用義務もない。

寸法的には、超小型モビリティの日産NEWモビリティコンセプトやホンダmc-βとほぼ同じ。つまり、とても小さいのだ。超小型モビリティの規格は厳密には未定なので、それを待たずにエレクトライクは現状のトライク規格でスタートした。おそらく将来的にもそれは変えることはないだろう。せっかく超経済的なのだから、そこを見直すなど意味をなさない。
3輪のトライクにした理由はここにあるとのでは、と想像している。

走行上の経済性に関しては、エレクトライクは1㎞当たりの燃料費(電費)が2.9円(メーカー公表想定値)。この数値はガソリン軽バンのおよそ5分の1でしかない。車検、車庫証明が不要だから、さらに出費面では有利になる。
EVにした理由は、こうした経済的な優位性と、左右輪のトルクコントロールを技術的に達成し安定した操縦性を得られたことも大きいし、何よりクルマでできる低炭素社会へのアプローチが、同車の普及によって可能となることではないだろうか。

最後にエレクトライクに少しでも興味を持たれた方に一言。

このエレクトライクを乗りこなすコツは何一つありません。
仮に、あなたの会社の仕事が1日に何度も人にモノを届けるようなことで、今までの選択肢が軽バンしかなかったとしたら。そして、
●経費節減などへの意識と、
●ささやかでも未来への責任を考えることがあり、
●クルマのカッコ良さとは形も大事だけど優しさも必要だと、
たまに感じることがあるのならば、あなたとその会社は十分な資格をお持ちだと断言します! そして「価値ある単一機能」の意義を理解されたことになるでしょう。

※日本エレクトライク 松波CEOインタビューはこちら

エレクトライク 主要諸元

 

A

B

全長×全幅×全高(㎜)

2495×1295×1695

車両重量(㎏)

430

405

乗車定員(名)

駆動方式

2モーター 後輪駆動

定格出力(kw)

4.5×2

航続距離(㎞)

約30

約60

最高速度(㎞/h)

49

最小回転半径(m)

2.8

駆動バッテリー(kwh)

リチウムイオン3.9

リチウムイオン7.8

充電時間100V

5時間

10時間

充電時間200V

2.5時間

5時間

価格(万円・公的補助金を利用)

100

130

※本仕様は予告なく変更される場合があります。