ペンギン脱走騒動と妙に重なる「日本人のリスク回避気質」

最近ちょっとした話題となった葛西臨海水族園から脱走したペンギンのこと。
5月24日、無事82日ぶりに保護されたという。怪我もなくまずはメデタシメデタシというのが大方の人の感想だろう。むろん、このことについて目くじらを立てようなどという了見は毛頭ない。が、ヘソ曲がり体質は同じような時期のいくつかの出来事とどうしても重なって見えてしまうのだ。

ペンギンの気持ちなどさすがに知るよしもないが、おそらく人間から見れば、園内にいれば食べ物にも困らないし、病気も診てもらえるし、仲間もいる。つまり安定した人(鳥)生をおくれるのになんでわざわざ危険(リスク)を冒してまで、自由(未知への挑戦)を求めるのさ、という見方が大多数であろう。
反面、現状に飽き足らずもっと違う可能性の世界があると信じ、単身外海(界)に身を投じる勇気を絶賛する意見も少なからずあるだろう。

どちらが正しくてどちらが正しくないかの評価は人それぞれの価値観におまかせするとして、似たような構図が我が人間界にも存在し、どうやらそこはペンギンのような愛らしい爽やかさは皆無のドロドロしたものだけが跋扈する妖怪界のように見えてしかたがないのだ。

例えば、

  • 重なる1 未だに閉塞に気付かない永田町

永田町の常識が一般世間では非常識ということで今さら驚く人もいないとは思うが、突き詰めればそれこそが国民にとって最大の不幸だとする人がにわかに急増しているような気がする。

    • 法案がまとまらないのは「ねじれ」のせいと言ってはばからない面々。自分たちで招いたことを堂々と責任転嫁する厚顔さは通常の庶民感覚にはない。
    • 公務員制度改革、特別会計改革、子育て支援、ムダの撲滅などを第一に掲げて政権についた現政権のはずなのに、公約外の税と社会保障の一体改革法案成立という順序が違うことに血道をあげる面々。
    • やれ反小沢だ親小沢などという、直接国民生活とはなんにも関係ないことに膨大な時間をかけたがる面々。
    • などなど・・・・・。

どうやら永田町水族園の居心地の良さから抜け切れず、ただただエサ(税金)を貪っているとしか思えないところに、橋下大阪市長や石原東京都知事がごく真っ当なアンチテーゼを投げかければ、国民やメディアの関心はそちらに向けられるのは至極当然のこと。つまり、結果として同市長や同知事が勇気あるペンギンのように見えてしまい、壊滅的な閉塞に気付かない永田町の面々が恐ろしくドンカ~ンに思えてしまうのである。

  • 重なる2 原子力政策は利害関係者の楽園なのか

5月25日付けの毎日新聞社説『核燃「秘密会議」 透明性の徹底図れ』http://mainichi.jp/opinion/news/20120525k0000m070148000c.htmlは、いささかショッキングな内容だった。
内閣府原子力委員会が核燃料サイクルの推進側だけを集めて非公開の「勉強会」を開き、サイクルの今後のあり方を検討していた同委・小委員会の報告書原案への意見を聞いていたというのだ。中立・公正であるべき政策決定が秘密会議の議論に影響されることがあってはならないし、原子力政策は利害関係者によってゆがめられてきたとの疑念がクローズアップされているところだ。新たに政策を選択していくに当たり、透明性の確保は最重要課題といっていい。原子力委は経緯を明らかにし、姿勢を正さねばならない。
というものだ。

原子力政策は原発の安全面のみならず、核燃料サイクルから使用済み燃料処理まで課題は複雑多岐に渡る。高度な知見や莫大な予算が求められることはある程度理解できるとしても、昨年3.11でそれまで関係者が唱えてきた安全神話が崩れたことも厳然とした事実だ。
とすれば、それ以後関係者はどちらを向いて仕事をしなければならないかは明白なことなのに、どうやら彼らの理屈は現状の原子力政策の維持一点に終始している。

連綿と築いてきた技術(既得権益かな)にこだわる神経もまったく理解できないでもないが、エネルギー政策は国の根幹に関わる問題だし、3.11で被った放射線関連被災者の将来もまったく見えてこない。一部電力会社からだが、原発がないと電力不足に陥るみたいな短絡的なダダこねてないで、あらゆる選択肢と時間割を精査して、今こそまさに冷静な対応を求められる時なのではないだろうか。
もちろん、それこそがまさしく政治の仕事なのだが、前述の社説ではそこに至るまでの行程に不透明なものがあったということだから、いかんともしがたい。なんともやりきれない気持ちになる。

原子力関係者に言いたい。スーパーエリートなら大局を俯瞰することはできるはずだ。
国民の多くは実際のところ、原発が果たしてこの先ずっと必要不可欠なのか、いつまでどれだけ稼働させれば依存しなくても済むのか、さらに実はまったく不要なのかが分からない。そしてそれぞれの国民コスト負担もほとんど分からない。文字通り不透明なままなのだ。

脱走ペンギンのように、一度ズブズブな空間を抜け出して知見をフェアに発揮できる人材が出てこないものなのだろうか。もし実現すれば、原子力ムラ出身の古賀茂明になれる。それこそ全国民が待ち望んだスーパーヒーロー(ヒロインでもいい)になることはまず間違いない!