夢のようで夢でない、「化学」技術力への大きな期待

リチウム空気電池研究の本拠地となる米カリフォルニア州サンノゼにあるIBMアルマデン研究所。小高い丘に建てられた54万平方フィートの施設で働くスタッフは400人以上。普段は関係者以外の立ち入りが禁止されており、家族や友人でもめったに入れない。サンノゼ市のダウンタウンからクルマで20分ほどのところにあるが、周囲は自然がいっぱいという環境だ。(出典:IBM)

日々気になる報道がTV、新聞やサイトから発信されている。と言っても北朝鮮のミサイルや原発再稼働のことではない。4月20日付IBM発のプレスリリースだ。
「日本IBM、旭化成・セントラル硝子が電気自動車向けリチウム空気電池開発に参加」という見出しだ。
その内容は、米最大規模のITイノベーション企業であるIBMがセパレータでリードする日本の旭化成の膜開発技術と、電池性能を向上させるための電解液、高性能添加剤技術のセントラル硝子と共同で取り組む壮大なプロジェクトという。
そのテーマは「リチウム空気電池」。目的はきわめて明快で『バッテリー500プロジェクト』という名称どおり、1充電で500マイル(800キロ)走行できるEVバッテリーの開発にある。

米オバマ政権が3月に「EV-Everywhere」として打ち出している、2022年までに米国企業が世界に通用する5人乗りの普及価格EVを量産できる体制を整え、現行比で50%コストを抑えたリチウムイオンバッテリーの開発や1回の充電で最大300マイル(約483km)を走行できる性能の実現である。
IBMがこの施策を念頭に開発を進めているであろうことは容易に想像できる。そのキーとなるのがまさしく「バッテリー」であり、それを実現(制する)するものが今後の主導権を有する、とも読める。

目が離せないリチウム空気電池の今後

さて、リチウムイオン電池ならぬリチウム空気電池とは何か。
ウィキペディアによれば、「リチウム空気電池または金属リチウム空気電池とは、金属リチウムを負極活物質、空気中の酸素を正極活物質とし充放電可能な電池を指している。一次電池、二次電池、燃料電池に実現可能である。原型は米国で特許となっており、その後日本で改良した別方式を開発したが、いずれも実用化は未だされていない」とある。


産総研が2009年に発表した新しい「リチウム-空気電池」の構成図。棒グラフは従来電池と正極放電容量の比較 正極の単位質量(グラム)当たりのミリアンペア時間 空気極の質量=(多孔質炭素+触媒+バインダー)、リチウムイオン電池の正極の質量=(活物質+導電助剤+バインダー)で計算。(出典:産総研)

日本の研究機関である独立行政法人「産業技術総合研究所(産総研)」が2009年2月に発表した研究開発リポートでは、
従来までのリチウム空気電池の問題点を、①正極に固体の反応生成物(Li2O)が蓄積し細孔を目詰まりさせ、放電が止まる。②空気中の水分が金属リチウムと反応すると危険な水素ガスを発生する。③空気中の窒素が金属リチウムと反応して放電を妨害する懸念がある、とする指摘をした上で、負極側に金属リチウムと有機電解液、正極側に空気極と水性電解液、両電解液の隔壁として固体電解質に着目し研究開発を行ってきた経緯がある。そして、
「新しいリチウム空気電池は、放電が終わった後に充電する代わりに、正極の水性電解液を入れ替え、負極側の金属リチウムをカセットなどの方式を利用して入れ替えれば連続使用が可能になる。これは一種の燃料電池であり金属リチウム燃料電池と呼ぶことができる。理論的には金属リチウム30キログラムはガソリン40リットルとほぼ同じエネルギーを持っている。空気極側で生成した水酸化リチウム(LiOH)を使用済みの水性電解液から回収すれば、電気的に金属リチウムを再生するのは容易であり、燃料として再利用できる」としている。

電池の低コスト、高性能、高寿命の研究、開発は東芝SCiBなどの例を見るまでもなく関係各社で活発に行われている。先日、トヨタは京大、パナソニックと共同でポストリチウムイオン電池の開発に人や設備投資を大幅に拡大するとリリースしたばかりでもある。
自動車技術の主流は機械工学⇒電子工学⇒そして化学技術へと変遷しているかに見えるが、何より大切なことは、利用者にとって自動車が「価値ある乗り物」であり続けることに尽きる。EVの未来とはまさにその一点にあると言っても過言ではないだろう。


バッテリー500プロジェクトとは
自動車の主要エネルギー源をガソリンから電気へ転換することは、21世紀前半における最も重要な技術転換の1つとなる。このニーズを認識したIBMアルマデン研究所の研究員は、2009年に1回の充電で500マイルの走行を可能にするリチウム空気電池の開発を行う同プロジェクトを立ち上げた。IBMアルマデン研究所とIBMチューリッヒ研究所双方で行っている化学、物理、ナノテクノロジー、スーパーコンピューティング・モデリングといった科学技術全域におけるIBMのリーダーシップを活用し、国立研究機関を含む他の共同研究協力者と連携してこのプロジェクトは推進される。(*IBMリリースより)